げんさんのほっぺ

本当は自分大好きなナル君なのに現時点ではとても残念な状態のモノノフが己を慰めるために地球の片隅で目立たない戦いをするブログ

小説:『白金台の夜明け』のための習作

ももクロ父親を殺された(と誤解している)科学者ハルコと、ももクロに命を救われた(と解釈している)青年ヨシキの恋愛ストーリーです。

ハルコの視点で書かれた『白金台の夜明け』サイドと、ヨシキの視点で書かれた『TAMARANTHUS』サイドを用意する予定です。

いつか最後まで書きあげることが出来たらいいな♪


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 神威――――。

 それは「神」の「威」を狩る者――――。

 そう、それは神の威を恐れず帰依を拒む五色の堕天使(イブリース)

 いずれ父なる神は彼らの心中の激怒を除き、御心に適う者の悔悟を赦されるであろう。

 我が父なる神の他に神はなし。預言者はその使徒なり。

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 白金台は夜明けを迎えようとしていた――――。

 ボクは下腹部に鈍痛を覚えて、まだ未明にも関わらず目を醒ましてしまった。このまま更に痛みが強くなるようならば、また非ステロイド性の抗炎症薬に頼るしかないだろうと思った。
 もし隣にヨシキが居てくれたなら、はちみつがたっぷり入ったジンジャーティーを作らせることが出来たのに……。きっと「こんな時間に?」って愚痴は言うだろうが、「キミの係りだろう?」と言えば有無を言わさず従わせることが出来たはずだ。

 毛布にくるまってまどろみながら、ボクはそんなことを考えていた。しばらくの間、そのままベッドの中でもぞもぞとしていたが、ボクの痛みとイライラは収まる気配が感じられなかった。仕方なくベッドから這い出して『Cottonreal』のナイトガウンを羽織った。

(仕方ない、自分で淹れよう)

 夜明けのキッチンはやはり寒かった。ボクは靴下を履かずに来てしまったことをちょっぴり後悔し始めていた。そんな時、不意に窓の外の景色が目に飛び込んできた。

(あ、『ピンクゾラ』だ……)

 『桃色空(ピンクゾラ)』は程よく空気が潤っている時にだけ見られる気象現象だ。大気中の水分が多ければ赤黒くなってしまうし、逆に少なければオレンジに寄ってしまう。文字通り空がぼんやりとピンクに染まるこの色が、ボクは好きだった。

(そう言えばヨシキと最後に会った日も桃色空だったな……あの日のは夕方だったけど)

 ボクは大ぶりなマグカップを携えてリビングを抜けると十一月のベランダに降り立った。マンションのベランダからは目の前に白金台幼稚園の屋上が見える。その遥か先からは間もなく太陽が顔を出し、ショーの時間は終わりを向かえるのだろう。

 ジンジャーティーから立ち昇る湯気が視界をかすめた時、不意に『叶わない永遠』という言葉が脳裏に溢れ出した。ボクはそのまま逃げることも出来ずに立ち尽くしてしまう。気が付けば涙で頬が濡れていた。


 ヨシキと出会ったのは三鷹の居酒屋だった。

 その日、ボクは若井に呼び出され、三鷹で落ち合うことになっていた。いつもより念入りに体を洗って長めの入浴を済ませると、ペールグレーの下着を着けた。何を着て行こうか少し迷って、結局『Vivienne Westwood』のセットアップスーツを選んだ。グレー地にタータンチェック柄というのは、ボク自身の印象には不釣り合いなほどガーリーなものではあったけど、若井はいつもそういう趣味のものを好んでボクに買い与えた。

 耳の後ろの髪をとり、上下に分けてブロッキングする。そのまま二つの束を強めにしっかりねじってゴムで仮止めしておく。反対側も同じようにしたら、その両方を後頭部に流し、やはりゴムを使って連結する。先端を左右に引っ張るとトップの髪が自然と持ち上がり、後は微調整で事足りるようになる。鏡を見ながら全体にボリューム感をだせば、これでハルコ流ハーフアップスタイルの完成だ。

 JR三鷹駅に着くと改札を抜けて迷わず南口を目指した。北口にはボクが時間をつぶせるような場所が無いことが分かっていたからだ。 しかし南口の空中広場では私立高校の教員に対する不当解雇の撤回を求める演説が行われていて、こちらはこちらで思った以上に騒々しかった。ボクは喧騒から逃れるために駅から少し離れることにした。しばらくぶらついて居酒屋かカフェでも見つけよう。どうせ若井の到着時間は打合せ次第の流動的なものなんだろうから。

 すでに車道は石畳からアスファルトに変わっていた。気まぐれに細い路地を右手に折れてみると、金属製のスタンドが縁石の上にちょこんと置かれているのが目にとまった。ガラス板の下に和紙が挟まっていて、達筆な筆文字で『酒・肴・生花』と書かれていた。

(酒……肴……生花?)

 雑居ビルの二階を見上げると居心地の良さそうな居酒屋だった。今日はその『礫(つぶて)』という名前の店で時間を潰すことにした。

 小柄で、まるで猫のような眼をした若い女将に案内され奥のカウンター席に向かった。「テーブル席になさいますか?」と声をかけられたが、独りでテーブルを長時間占領することに気が引けて、カウンターを希望した。
 改めて店内を見回してみると、確かに居酒屋と花屋のハイブリッドだった。入口のレジ横は三畳ほどの生花販売ゾーンになっていて、(正直、草木のことは知識が無いので分からないけれど)大きな陶器の壺に飾られた様々な花や枝たちが、店内を豪奢な雰囲気に彩っていた。

 お薦めの日本酒を尋ねると、女将は少し驚いた。「とりあえずビール」と言わなかったのでよほどの日本酒党と思われたのかもしれない。ボクの好みを簡単に伝えると秋田の『本荘』という日本酒を薦めてくれた。それから日本酒を作るときに使う『仕込水』をチェイサーとして出しますねと教えてくれた。


 若井からは何時に連絡が入るか分からない。今夜は長期戦を覚悟しなくてはならないだろう。ボクはノートパソコンを取り出してブラウザを開いた。先週検索をブックマークしておいた生命科学系の論文原著を一気に読んでしまうには絶好の機会だったからだ。
 店内はそれなりに混み始めてはいたものの、大声で騒ぐような客層では無かったのが幸いした。ボクは心置きなく世界中の論文の海に身を委ね、目の前を流れる文字の群れを堪能することが出来た。

 唯一の例外と言えば後から入店してきて並びのカウンターに座った男性客だ。ボクがまず驚いたのはその男の壊滅的なファッションセンスだ。一般的に『オタク』と呼ばれる人種のファッションに関するレベルが著しく低いのは、決してセンスが無いからではなく、お金をかけるポートフォリオが一般人と異なることが原因だと思う。

 だがその男はそういう次元には生きていなかった。アウターで羽織っていた紺色の『MA-1』はまあ良いとして、中に着ていたパーカーが我が目を疑うような代物だった。それはまるで割れたガラスのような水色の破片が、全体にちりばめらているピンク色のパーカーなのだ。そのおぞましさが想像できるかい? ボクにはこれを着て外出する勇気はない。間違いなく何かの『罰ゲーム』だとしか思えないデザインだった。

 きっと店内に居合わせた他の客たちも同様の感想だったのだろう。男が上着を脱いだ時、店内がザワついたことは気のせいではなかったはずだ。そしてどういう訳か猫目の女将が何かにつけて男に話しかけるのだ。ボクはそのたびに集中を削がれて、また数行前に戻っては論文を読み返すハメになってしまうのだった。

 それから一時間ほど飲んだだろうか。男がついに帰り支度をし始めた。女将を呼び止め「お会計お願いします。カードで!」と言って、クレジットカードをオーバーな仕草で肩口へ掲げた。
「お客様、大変申し訳ございません。当店では『Angel Eyes』のカードはお使い頂けません」
 女将がそう返すと二人は爆笑した。何が面白いのか全く理解が出来なかった。ただ『Angel Eyes』という単語だけ、妙に心にこびりついて気になった。Angel Eyes……Angel Eyes……どこかで間違いなく聞いたようなフレーズだ。

「本日はご来店ありがとうございました。また会いに来てね。いつだって『三鷹』だから」

 女将がわざとらしいセリフのような言い方で告げると、それに応えて男が笑った。その刹那、ボクの脳裏で何かがスパークした。そうなのだ「いつだって『三鷹』だから」というフレーズには聞き覚えがあった。もっとも本物の方は『味方』ではあったけど。

(そうか、ボクはついに『被験者』に巡り合ったんだ!)

 うれしさのあまり興奮した。男がトイレに立った隙に『ももクロ パーカー』と入力し画像検索を行った。ビンゴ! やはり公式アイテムのパーカーだった。

(へー『galaxxxy ヒョウ柄パーカー』と言うのか……あれはガラスの破片がモチーフなんじゃなくてヒョウ柄だったという訳か。ウケるな)

 男がトイレから戻るのを待って声をかけた。
「キミは……ひょっとして『モノノフ』なのか?」
「え? な、何でですか?」
 男は上ずった声でボクの方を振り返った。照れたような、それでいて怯えているような、ひどく曖昧な表情でボクを見下ろすその顔に懐かしさを感じた。ボクが子供の頃に飼っていたミニチュアシュナウザーの『ロジャー』にそっくりだったからだ。
 ロジャーもこの男のように黒目がちで、常に怯えたように瞳を潤ませていたっけ。でもあの頃、もしロジャーが一緒に居てくれなければ、ボクはきっと正気を保っていることが出来なかったに違いない。

「さっき出したのはファンクラブの会員証だったんだろう? つまりモノノフなのかなぁ、と思ってね」
「そうですね。確かにモノノフです。まぁ、ニワカですけど……」

(いいぞ。『被験者』としては初期段階の方が望ましい。『ステージ』が進行してしまってはメカニズムの解明には役に立たないだろうからな)

 男も何か言いたそうだったが、ボクは無視して話を進めた。
「質問いいかな。キミはアイドルになりたいという自覚は、すでに芽生えているのか?」
 男はモジモジしながら頭を掻いた。
「あー、いや……アイドルになりたいんじゃなくって、単にアイドルの追っかけってだけです。それじゃ!」
 逃げるな! ボクは更に追い打ちをかけた。
「いや、キミがアイドルになりたいのは『遺伝情報』に組み込まれている決定事項だ。ボクが聞いているのはその自覚がキミにあるかどうかという点だよ」
 男は奇妙なほどシュンとして、か細い声で「……すみません。自覚は無いです」とつぶやいた。

 その瞬間からボクの観察が始まった。手始めにカバンから実験ノートを取り出すとまず最初に今日の日付を書き込んだ。そしてこの記念すべき出来事に敬意を表して、ノートいっぱいに『無自覚な被験者と接触』と書き止めた。

 では観察を続けよう。

「キミが追いかけている『ももいろクローバーZ』っていうのはな、実はかなり危険な存在なんだ。彼女たちは全人類をアイドルにしようと企んでいる可能性が著しく高いと考えられる。あと数年のうちにヤツらがテーブルを叩いて全人類に無条件降伏、つまりアイドルとして生きることを迫ってくる日がやってくるかもしれないのだよ」

 男が仰け反った。ボクの話を都市伝説の類だとでも思ったのだろう。そんなことは想定の範囲内だ。まずはこの男を再び席に着かせてボクの話も聞いてもらわなければならない。ボクは男のパーカーの袖をつかんでこう告げた。

「イエスかノーか? 受け入れるも受け入れないもそれはキミ次第――――」


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以上です。
それではまた、いつか、どこかで……。

 

#桃色空 #モノノフ #Vivienne Westwood #ももクロ